M&AにおけるESG

10 03 2021

企業はM&Aを検討する際、その取引が環境、社会、ガバナンス(ESG)にどのような影響を与えるか考慮するようになってきています。M&AにおけるESGの影響について、ゴールドマン・サックスの投資銀行部門、アクティビスト対策助言部門の責任者、アヴィナッシュ・メロートラが解説します。

企業のM&A戦略におけるESGの役割は。

企業がM&Aを検討する際、自社戦略との適合性や財務状況が最も重要な決め手となることに変わりはありませんが、戦略の適合性を評価する一つの要素としてESGの重要性はますます高まっています。自社のESG評価の向上を主な動機としてM&Aを行うケースもあれば、ESGがM&Aの判断にさほど影響を与えないケースもあります。しかしM&Aによって二酸化炭素排出量やサプライチェーン、社会的なインパクトがどう変わるのかを予想し、企業価値の算定に反映する傾向は強まっています。ESGの特徴が異なる企業同士のM&Aであれば、情報開示方針などポジティブな違いが相乗効果を生む可能性がある一方、双方の違いがあまりにも大きく、案件自体が破断となるケースもあります。


ESGはM&Aのプロセスにどのように組み込まれているのか。

M&A候補の選定やそのデューデリジェンスにおいてもESGは重要な意味を持ちつつあります。買い手と売り手のESGへの考え方の違いは、往々にして双方の企業文化や規範の根幹にかかわるケースが多く、M&Aの成否を分ける極めて重要な点です。ESGに対する考え方が自社と大きく異なる企業を買収しようとすれば、従業員やその他のステークホルダーとの間に軋轢が生じるでしょう。だからこそ、買収後の統合戦略において、統合事業のESG評価や、それが買収対象企業のステークホルダーに与えうる影響を考慮することが不可欠です。少なくとも、企業理念の方向性が一致していることは確認すべきでしょう。ゴールドマン・サックスでは、買収によるESG上のメリットを発表時にきちんと説明できるよう、お客様のお手伝いをすることも多くなっています。こういった情報の開示はまだそれほど進んでいませんが、ESG上プラスに働く買収にはメリットがあることを企業は理解しています。逆に、ESG上のメリットやリスクに対する対策の説明が不十分だと、投資家が懸念を抱いてしまうケースもあります。今やESGは、レピュテーションリスクやサイバーリスクと並んでリスク要素とみなされているだけに、M&AにおけるESGの重要性が高まっています
 

ESGに関連したリスクとチャンスを把握するには良質なデータが必要だ。ESGについて標準化された指標がないのは問題ではないか。

ESG格付けなどに頼る個人投資家や機関投資家とは異なり、M&Aを検討する企業は通常、より深く掘り下げたデューデリジェンスを行うので、ESGに関する標準化された指標の不足はそれほど大きな問題ではありません。もちろん、より信頼性が高く統一された開示制度ができれば、公開情報に基づいたデューデリジェンスが円滑に行えるでしょうが、これだけではほとんどのM&A案件は成立しません。ESGの開示がM&Aに影響を与えうるとすれば、開示方針などESGが優れた企業とそうでない企業では相対評価に差が出るという点でしょう。ESGスコアの高い企業は低い企業よもり有利な条件で資本や資金を調達できています。たとえば、グリーンボンドやソーシャルボンド、サステナブルボンドは従来の非ESG債より、投資家の需要も多く発行体にとって有利な条件で発行されています。
 

確かに投資家はESGに注目しているが、それは企業戦略にどのように影響するのか?

重要なのはESGファンドの運用資産が増加していることです。ESGに関心を持つ投資家層、特に次世代の若い投資家の意向がファンドの運用方針に反映されれば、ESGを推進することになります。またこれらのファンドは多くの大企業の主要株主でもあることから、企業の行動にも影響を与えます。たとえば資産運用業界では、非ESGファンドとは対照的にESG関連には資金流入が加速していることを企業は意識し始めています。ESG投資の機運は当初、欧州の年金基金を中心に高まりましたが、今やグローバルな流れとして本格化しており、米系ファンドもアクティブ、パシッブ問わず、投資を急速に拡大しています。これに加えアクティビストも、企業に対する要求の中にESGの改善を加える傾向にあります。これに合わせて企業も行動や社内文化、開示方針など、ESGを意識した方向に見直しをおこなっており、ゴールドマン・サックスもさまざまなお客様に対して助言を行っています。   

 

 

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