カーボノミクスー景気回復のグリーンエンジン

04 08 2020

新型コロナウイルスによる世界経済への打撃は、低炭素社会への移行にどのような影響を及ぼすのか。ゴールドマン・サックス投資調査部のミケーレ・デッラ・ヴィーニャが解説します。

 

世界経済の復興においてクリーンエネルギーへの移行はどのような役割を果たすのか。

クリーンエネルギーの生産・貯蔵・供給を可能にするクリーンテックは、今後の経済復興に大きな役割を果たすと考えています。具体的には、官民の協力、低コストの資金調達、環境に優しい規制などが後押しとなって、年間1~2兆ドルのグリーンインフラ投資が行われ、2030年までに世界中で1,500万~2,000万人の雇用の創出につながると予測しています。2021年には再生可能エネルギーがエネルギー産業における最大の投資分野となり、歴史上初めて石油・ガス上流事業を上回るでしょう。再生可能エネルギー、バイオ燃料、電動化の新時代に必要なインフラが中心になると考えていますが、注目が集まってきている二酸化炭素吸収源、水素や炭素の回収・利用・貯蔵に関連した技術も、小規模ながら投資対象になるでしょう。地球温暖化を2℃以内に抑えるという2015年のパリ協定における野心的な目標を達成するためには、2030年までに最大16兆ドルの投資が必要と考えられます。

クリーンエネルギーがこのような大規模な雇用創出につながるのはなぜ。

クリーンエネルギーの普及を支えるグリーンインフラは、生産されるエネルギー1単位あたりに必要な資本と雇用が、従来のエネルギー開発に比べて1.5~3.0倍高いと当社では試算しています。この試算は、(1)発電産業における自然エネルギーへのシフトと、(2)地球温暖化を 2℃以下に抑えるために必要とされる輸送手段の電動化、という2つの要素による純雇用創出を対象としており、間接的な雇用創出などによる相乗効果は加味していません。建物の改良、ネイチャー・ベース・ソリューション(NBS、自然を基盤とした解決策)、産業全体の脱炭素化からもたらされる雇用創出も含みません。

各国政府の財政的な余裕が限られる中で、いかに雇用を増やせるかが経済回復において重要になります。たとえば欧州では、多くの欧州連合加盟国が気候変動政策を原動力とした経済成長と雇用創出を目指すと公言しています。また欧州連合の掲げた、温室効果ガス排出量を2050年までに実質ゼロとする欧州グリーン・ディールへの期待も高まっているようです。

投資家の見方は。

今、世界中の投資家は、気候変動対策を事業計画や戦略に組み込むよう企業の経営陣に対して積極的に働きかけたり、エネルギー産業の変革において主導的な役割を担おうとしています。気候変動に関連した株主提案の数は2011年以降、ほぼ倍増しており、それらに賛成票を投じた投資家の割合は同期間で3倍に増加しています。2020年は新型コロナウイルスの感染拡大にもかかわらず、気候変動に関する株主の関与が記録的な水準に達し、気候変動関連の議案数は年率ベースで 昨年を上回りました。同様に賛成票の割合も前年比で増加し、30%を超えています。

2008年~2009年の金融危機による不況は脱炭素化を大幅に遅らせた。今回の不況の影響は。

世界金融危機は低炭素技術の採用ペースに大きな影響を与え、再生可能エネルギーに向けた投資が 2009 年には初めて前年比で減少しましたが、2010 年には成長を取り戻しました。一方、バイオ燃料や炭素回収のような規制上の支援が少ない、再生可能エネルギーと比べ高コストの技術は回復しませんでした。

このため、新型コロナウイルス収束後には財政・金融両面の刺激策により、すでに大規模なクリーン技術(太陽光、風力、バイオ燃料)への投資が加速される一方で、初期の脱炭素化技術(二酸化炭素回収・貯留、クリーン水素)の開発が後回しにされ、脱炭素化プロセスが2つの異なる速度で進行するリスクがあると考えています。

 

2020年11月には第1回カーボノミクス・カンファレンスを開催。30人の登壇者、5,000人の参加者を迎えたこのイベントでは、サステナブル投資・資金調達やクリーン水素の台頭など、世界の主要産業を一変させている新たな脱炭素化トレンドや技術に関する10大テーマについて議論が交わされました。

 

グローバル投資調査部

カーボノミクス 第1回カンファレンスの10大テーマ

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